jiiji1941’s diary

日本の1960年末から80年代の奇跡、2000年代の奇跡の記録。

遺書ー9

私の遺書ー9

参照
https://jiiji1941.at.webry.info/201905/article_14.html

 

http://d.hatena.ne.jp/jiiji1941/20110604
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2011-06-04 第一章 宝の山ー2
(6月3日のつづき)
 その日もいつものように穴の底まで行き、御燈明(おとうみょう)を点(とも)してから、家から持参した水筒でお水を替え、お供物(そなえもの)を奉(ささ)げ、護摩をたいてお祈りを捧(ささ)げておりました。
 すると、不思議なことに途中で何度も御燈明が消えるのです。さして風の強い日ではありませんし、深く掘った穴の底のことでもあり、今までこんなことは一度もなかったことです。訝(いぶか)しく思いながら、三本目か四本目のマッチを擦(す)った途端、急にあたりは異様な程の明るさに包まれたかと見る間に、白っぽい衣裳をまとった人物の姿がぼんやりと浮かび上がったのです。とっさに思ったのは少年の頃、神賀山の山頂近くで会った巡礼のことでした。でも遠い日のかすかな思い出で、同じ人物かどうか判断がつきません。しかし、もし同じ人物だとすると、待ちに待った御宝物の在り場所をいよいよ教えて貰(もら)えるのかもしれないと、期待で胸が震えました。だが、そうではなかったのです。いや正確に言うと口に出して言葉として喋(しゃべ)ったのではないようでした。というのも口元は、はっきり見えていましたが、唇が動いたようすはなかった、声の高低もまるで記憶にないからです。
でも、その人物の話した内容は明瞭に覚えていますし、その時、一瞬にしてピーンと判ったような記憶があるのです。
 ともかく、その人物が話した内容は私の予想もしなかったことでした。此処から数キロ離れた物部川沿いの場所で、間も無く夥(おびただ)しい死人が出るというのです。そして、お前はその一部始終を見るだろうというのです。そう言われても、何のことやら訳が判らず、私は呆(ほう)けたように立ち竦(すく)んで居りました。まるで金縛りにあったようで動こうにも動けなかったという方が当たっているかもしれません。かといって別に恐怖感があったわけではなく、むしろ酒でも飲んだ時のように、一種の陶然(とうぜん)とした気分を味わっていたような気がします。
つづく

■第一章 宝の山ー3 05:56

(6月4日のつづき)
 まもなく、その人物を包んでいた光はますます明るさを増し、眩(まぶ)しいほどに輝き始め、あっという間に姿が見えなくなったかと思うと、私自身も何やらふっと気が遠くなって宙に浮かび上がるような感覚がしました。いや、正確に言うと身体はそのまま地面に倒れ込んだに違いないのですが、私自身の意識は宙に浮かび上がったと言った方がどうやら当たっています。その瞬間、激痛が走ったのも覚えています。やがて、祭りの太鼓のようなドンドン響(ひび)く音が鳴り渡り、真暗な穴か洞窟のような所を大変な勢いで昇って行ったようでした。
 そして、ふっと気が付くと、私はいつの間にか高い杉の木の梢(こずえ)の先にいるのです。今にも折れてしまいそうな細い枝の上に居るのに、まるで平気でした。見おろすと、一本の川が流れており、それに沿って幅(はば)六、七メートルくらいの道が弧を描いて伸びていました。間違いなく見覚えのある風景です。川は物部川に違いなく、道は国鉄バスが走っている国道に相違ありません。このS字型のカーブは、杉田と橋川野の両停留所間の地点です。物部川の対岸にちらちら見える灯は、(あがすみ)暁霞村白川部落に違いありません。
 その時、闇の中から鈍いエンジンの音が聞こえてき始め、やがて二条の強烈な明りが道を照らしながらこちらに向かって近づいて来るのが見えました。いかにも重そうな走行ぶりといい、車窓から見える車内の混雑ぶりといい、余程超満員の乗客を運んでいるらしいことは一目瞭然でした。一つ目のカーブを曲った時、車体はちょっと傾きかけて、すぐにバランスを取り戻しましたが、酔っ払いの足どりのようで、何とも危う気でした。そして、いよいよ目の前のカーブへ差しかかろうしていました。反対方向を見ると、一台の自転車が無灯火でこちら側に近づきつつありました。私の脳裏をかすめたのは、あの不思議な人物の言った「間もなく夥しい死人が出る」という言葉でした。
 事故は、今、目の前でゆっくりとそして着実に起ころうとしていました。それを私はただ手を拱(こまね)いて見守っているだけでした。
 ヘッドライトの先の輪の中に、突然、自転車に乗った人影を見つけた運転手は、慌(あわ)てて急ブレーキを踏み、咄嗟(とっさ)にハンドルを左へ大きく切った。彼の運転感覚では、路肩まではまだ十分余裕を残しているはずだった。
 ところが、誤算は思わぬところにあった。定員三十三名のバスに、倍近くの六十一名が乗っていたことである。急ブレーキと急ハンドルで乗客の体重は一挙に左前方に集中されてしまったのだ。
 弾(はず)みのついた車体は運転手の踏むフートブレーキなどおかまいなしにズルズル前方へ動き出し、左前輪を大きく路肩からはみ出しかと思うと、見る間にぐぐっと車体前部を宙へ突き出し、次の瞬間、前のめりのかたちで墜落。大きくもんどり打って、断崖に何度もぶつがりながら、四、五十メートル下の物部川の川原まで転がって行って、ようやく止まった。
 車が最初に断崖の途中の岩に衝突した時、グワーンという轟音(ごうおん)が辺(あた)りの静寂を破って鳴り響き、それと共に車体の一部や人間の肉片らしきものが四方へ飛び散るのが薄闇の中ではっきり見えた。」
 どうですか、信じますか。

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